真っ直ぐ、
    ただ真っ直ぐに歩こうとした。

    そしたら、おやあ?
    おーい、これは一体どうしたことだ?
    体が勝手に。

    気づけばどんどん横道にそれてしまったのです。
    目的地だったはずの場所は遥かあんな所に…。

    真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに歩こうとはしたのですが、
    気がつけばこんな所に来てしまっていたのです。

    ありゃあ?…ありゃりゃ?こりゃイカん!
    あわてふためき色めき立って、またまた遠くに見ゆるかの
    目的地を目指し勇ましく駆け出すのではありますが、
    行けば行くほど、またもまたも場末の
    入り組んだ路地や鄙びた磯地に入り込み、はまり込み。
    絡まった足どりは更に珍妙となり、あちら行きこちら行き。

    カニフラフラ
    カニフラワー

    流れ流されて不本意なあらぬ場所にたどり着き、その岩陰
    に身を置いてはすねて自分の殻にこもり、目をキロキロさせ
    考え込んでいたわけなのです。

    なんでこんなことになってしまったか…

    ん?…目をキロキロ?

    はて?そもそもなんでオレの目はこうもキロキロ動くんだ?
    考え出すと居ても立っても居られなくなって、両の目をキロっと
    下に下げ川面に己が姿を映してみると…

    そこに居たのは一匹の蟹だった。

    ん?ちょい待て、ちょとストップ、一回止めて。え~っと。

    ロンドン、パリを見晴るかすが如く、両の目をキロりキロりと
    外に向け内に向け、さてコレは何かの間違いではなかろうか?
    と考えた。しかし川面の向こうでいぶかしがっているその蟹は、
    蟹としか言いようのないソレは
    正しく私の姿の様なのであった。

    な、なんでこんなことになってしまったんだああぁ!

    フォッフォッフォッ…

    ハサミを振り上げ、いくら苦悩をアピールしてみても肩を震わせ
    せせら笑っているバルタン星人にしか見えない。

    なんだこりゃ…

    ワケがワカらん。ワケなぞワカってたまるか。だがしかし、
    ワカらんなりになんでオレが今までこんなだったか、合点がいった。

    そうか、オレは一匹の蟹だったのだ。

    オレはいっぱしの人間様の様なツラをして、その他大勢の人間様が
    向き向かうその先へ共に大股歩き大手を振って人生を大闊歩している
    つもりが、その実、ワシワシあせあせとあらぬ方向へ横歩きしていた
    蟹だったとは…事ここに及びようやく合点がいったのだ。

    カニフラフラ
    カニフラワー

    それからも蟹…である私は人間様である事の未練が捨て切れず蟹の
    分際を匿しその他大勢の人間様の目指す方向へ歩こうとした。
    もちろん、目指す方向に狙いを定め、それに対して体を横に向けて。
    そうすれば横歩きでも上手く目的地へ行けるのではないか?
    こいつは妙案だとプククとほくそ笑んだのだった。
    だが、事はそう簡単に上手くいってはくれなかった。
    今度は勢いよく、逆方向へ走り出したからだ。
    おーい、おいおーい!

    カニフラフラ
    カニフラワー
    あちら行きこちら行き

    先を行く輩、先輩。
    共に行く輩、同輩。
    後から来る輩、後輩。

    見渡すに世間は案外と広く、案外とそこここに
    私同様の珍奇珍妙の輩はたくさんいた。

    例えばその輩たちの一人に
    自分はなんて後ろ向きなんだと嘆く後輩がいた。
    後ろ向きで一向前に進めないと…。

    その後ろ向きの若い輩に教えてやりたい。

    おーい、早く気づけ。
    オマエはエビだ…。

    後ろ向きだなんて、エビなんだから。
    そんなの当たり前だ。
    そんで、
    自分がエビだと気づいたら…
    勇気を出して後ろ向きに、
    えいやっ!っと走り出せ。

    なんて。

    自分が何者であるか解かったからとて、
    事はそう簡単にはならないさ。

    まして、エビやはたまた、イカやバッタであるかもしれぬ
    輩たちの切なさ悲しさ、苦しみが蟹である私に解かるはずもない。

    生まれて気づけば、オレたちすでに蟹やバッタで。あらぬ方向へ
    飛んだり跳ねたり、挙げ句の果ては殻に閉じ籠ったり。自分でも
    ワケがワカらぬ。前にも行けねえ、いや、どっちが前かすら
    ワカらねえ。自分自身どこへ向かうか、どこへ行けばいいか、
    皆目見当もつかぬ。だがワケがワカらんながらも生きて来た、
    生きて来たんだよ。
    だからどうかレンジでチンした様な安っぽくカンタンな言葉で、
    だったら死ねなんて言わないでくれよ。
    なぁ人間様たちよ。

    でもよでも、さてもさても先輩方、同輩たちよ。

    そんな中、私も気がつけばこの殻にこもり、四十数年の時が
    過ぎた。もう古びた殻の中はぱんぱん。どの道、脱皮しなきゃあ
    死んでしまう。後に続く輩たちもいる。そこでご一同、
    ひとつ相談なんだが。ここらでいっちょオレはやらかしてみようと思うのだ。
    古びた殻を脱ぎ捨ててなんだか明るそうなあの方向へ歩き出して
    みようかと。
    もちろん、あるがまま、蟹がままの自分で。

    カニフラフラ
    カニフラワー

    そう思い立ってみたのはいいが、四十数年着込んだ殻はそうそう
    簡単には脱げるものではなかった。
    思い立ってより更に数年、殻から抜け出した時の色艶の良い、
    ぴっちぴち、かつ、むっきむきの色蟹になった我が身をムフフと
    想像するのを糧にして、やっとの事、ほわゃちゃああ~っと殻から
    這い出した。やったやったやった、ついにやったぞぉ~とロッキーばりに
    小躍りし、その勇姿をまたも川面に映そうと覗き見れば、そこに立っていたのは
    小枝を編んだ様な何とも貧相な痩せこけ蟹だった。
    そいつは青空を背に青い顔して震えていた。
    側に転がる脱け殻は目をひん剥き絶命していた。
    殻の中からはこの世のありとあらゆる汚泥が腐臭と共に
    どろどろ溢れ出していた。ぱんぱんだったのは何のことはない、この世の
    ありとあらゆる汚泥が詰まっていたからだ。

    それを空の大天宮のひとつ、蟹座から見ておられた我らが
    蟹界の大親分、すなわち“カニ様”がのっそり姿を現し
    こう言った。

    ガッカリするな、わが同輩よ。ワシらは生まれ変わる、何度でも。
    案ずるな、実はこの世にはほんとは前も後ろも上も下も右も左もありやしない。
    ワシら各々のそれぞれ進む方向がすなわち前だ。ワシ、良い事言うなぁ~。
    ツラくてもクルしくてもオマエは一匹じゃない、ナゼなら蟹は泡と一緒じゃろ?
    アワーと一緒…Ourと一緒、蟹だけにね…プクプクー、なんちてー!

    さむいよ。カニ様。

    でも、ほんと?

    じゃあ、オレ、こっち?、かな?

    いや、

    こっちかな…?

    そうだ、こっちが前だろ?…たぶん。ねえ?



    ムクれてないで、なんか、言ってよ、カニ様。
    でも、こっちが前だよ、きっと。

    前と言う事にしとこうぜ。
    だって体が勝手にそっちに動くんだもの。

    しかし、脱皮したてのこの身体、なんて弱々しい…

    でも。
    生きてるんだ、オレたち。
    空も青いし風も吹く。

    だから。
    さあ、行こうぜ、びくびくものだけど。
    さあ、進もうぜ、これからどこへ行くのやら。
    でもいつかどこかへたどり着こうぜ。
    オレたちの憧れの場所へ。

    カニフラフラ
    カニフラワー
    あちら行きこちら行き

    カニフラフラ
    カニフラワー
    カニは歩く花だよ。






    長い独り言、最後まで読んでくれてありがとうございました。
    次からはもっと短く簡潔に書けますようなるべく努力いたします。

    “直人の独り言”は私のブログ「あだばえの花」adabae.com
    収録していきます。
    では、今後ともよろしければ、よろしくお願いいたします。

    2017年4月24日 |